ARCHIVE

HOSOO Research & Development Project vol.1

QUASICRYSTAL

コードによる織物の探求

会期
2020年10月24日(土)–2021年3月10日(水)

株式会社細尾はリサーチ部門「HOSOO STUDIES」を設立し、有史以来、脈々と続く「布と人間の関わり」について、現代ならではの視点を交えた多角的な研究開発を継続的に行っています。「HOSOO STUDIES」では、HOSOOがこれまでに培ってきた染織作家や産地、有識者、クリエイターとのネットワークを活かし、関係者への取材や調査活動、そして工房を持つHOSOOならではの先駆的な織物開発を通して「美とは何か?」を問いかけるリサーチを展開しています。

この度、「HOSOO STUDIES」の研究開発プロジェクト第一弾として「QUASICRYSTAL―コードによる織物の探求」の成果をHOSOO GALLERYにて展示します。

本プロジェクトは、2017年より、古舘健(アーティスト/プログラマー)と共に、織物の根源的な構成要素である「織組織」に関する研究開発に継続して取り組んできたもので、2019年からは、堂園翔矢、巴山竜来、平川紀道というデザイン、数学、アートと異なる領域でコンピューテーションによる表現や研究活動を行う3名を迎え、4度にわたる工房での滞在制作を経て、プログラミングによる新たな織組織の秩序を開発してきました。

この研究開発プロジェクトの題材となっている「Quasicrystal(準結晶)」とは、ある規則性を有しつつも、周期性のない結晶構造から着想を得ています。織物の組織は元来、結晶構造のような規則性を有した織組織によって構成されてきました。西陣織も、他の織物と同じく、主には「平織」「斜文織」「朱子織」と呼ばれる三原組織と、これらを応用した変形組織によって構成され、組織の組み方の妙により、紋様や質感表現を巧みに変化させてきました。織組織とは、これらの三原組織を基礎として、長い年月をかけて職人の経験値によって培われ、継承されてきたものです。本研究開発プロジェクトでは、この織組織を、コンピューター・プログラムのコードによって生成することにより、有史以来培われてきた手法とは異なる発想から、準結晶を思わせる新たな秩序を持った組織の制作に取り組んできました。

またHOSOOならではのプロセスとして、4名により制作されたこの新しい織組織を、1200年間美を追求し続けてきた西陣織のDNAを継承するHOSOOの職人たちが受け取り、西陣織ならではの素材、技術によって普遍的な美を兼ね備えた全く新しい織物へと導いています。人間の寿命では計算しきれない組織をコンピューターが作り上げ、人間の手と感性で仕上げるというプロセスを経ることによって、美とは何かということを問いかけた作品となっています。

HOSOO GALLERYにて、この研究開発に基づき制作した新作を展覧会として公開いたします。“More than Textile” を信条とするHOSOOの工房の新たな取り組みとして、1200年の歴史上初めて生まれた織物による、圧巻の展示とアートピースをお楽しみいただければ幸いです。

Exhibition Handout

PROFILE

古舘 健

アーティスト/ミュージシャン/エンジニア

1981年生まれ。京都在住。サウンド・インスタレーション「Pulses/Grains/Phase/Moiré」にて、文化庁メディア芸術祭大賞(2019)、Digital Choc賞(2018)、CYNETARTAWARDSファイナリスト(2018)に選出。自身の主催するプロジェクト「The SINE WAVE ORCHESTRA」にてPrix Ars Electronica Honorary Mention(2019, 2004)、CYNETART AWARD(2018)、文化庁メディア芸術祭審査員推薦作品(2017)に選出。ミュージシャンとしては、恵比寿映像祭(2016)、Knowledge Capital Festival(2015)、Kyotographie(2014)、Sonar Sound Tokyo(2011)などのフェスティバルに出演。また、高谷史郎、坂本龍一、Dumb Typeを始め、様々な作家の制作に参加している。

Photo by Gottingham
堂園翔矢

デザイナー

1988年生まれ。Qosmo所属。コンピュテーショナルデザインの手法を用いたグラフィック、映像、Webなどの制作・リサーチを行う一方、梅田宏明のダンス・インスタレーション作品での映像プログラミング、橋本幸士(大阪大学)との恊働による高次元可視化等、領域を横断したコラボレーションを展開。アルスエレクトロニカ、文化庁メディア芸術祭など受賞多数。

巴山竜来

数学者

1982年奈良県生まれ。専修大学経営学部准教授。博士(理学)。専門は数学(とくに複素幾何学)、および数理的生成手法によるCGとデジタルファブリケーション。2010年大阪大学大学院修了後、パリ大学、国立台湾大学、清華大学でのポスドク研究員等を経て現職。著書『数学から創るジェネラティブアート』(2019年・技術評論社)。

平川紀道

アーティスト

1982年生まれ。もっとも原始的なテクノロジーとして計算に注目し、コンピュータプログラミングによる数理的処理そのものや、その結果を用いたインスタレーションを中心に、2005年から作品を発表。2016年、カブリ数物連携宇宙研究機構のレジデンスで作品「datum」シリーズの制作に着手、豊田市美術館、札幌国際芸術祭プレイベントなどで発表したのち、17年、チリの標高約5000mに位置するアルマ望遠鏡のレジデンスを経て、六本木クロッシング2019などで最新バージョンを発表。また池田亮司、三上晴子らの作品制作への参加、ARTSATプロジェクトのアーティスティックディレクション等も行う。2019年より札幌を拠点。